第6回:外国人が仕事を得る近道は日本留学? 海外から就職?(2020年9月21日)

垣内 哲(日本語教師センター副会長)

 

「留学は日本で仕事を探す近道だ」。そのような考えで来日した外国人は多いことだろう。しかし、海外で日本語教育が浸透し、国内の就職も従来は日本語能力試験N2の取得が必要という風潮だったが、いまやN3やN4でも可能となった。果たして外国人の就職事情はどうなっているのか。実態を在留資格から紐解いていく。

 

外国人が日本で就職する際、大抵は「技術・人文知識・国際業務」「特定技能」「技能実習」という3つの在留資格のいずれかを取得する。このうち「特定技能」と「技能実習」は就労できる業種が限られる、家族を呼び寄せられない(※特定技能2号は配偶者と子どもを呼び寄せられる)、在留期間の延伸年数に限度があるなど、働き手にとっては不便だが、取得条件が高校卒業以上及び日本語能力試験N3以下という敷居の低さゆえ、国内で在留資格を「留学」から「特定技能」に変更する一部の留学生を除き、海外から直接就職する外国人に多く利用されてきた。一方、「技術・人文知識・国際業務」は多くの業種に就くことができるほか、在留期間を延伸すれば何年でも日本に住み続けられるなど自由度が高い。ただし、高等教育機関卒業以上(※海外の専門学校を除く)が取得条件となることから、海外の高校を卒業して日本語教育機関に留学する外国人の場合、国内の大学や専門学校に進学して取得を目指すのが一般的だった。

 

入管協会が発行している『在留外国人統計』によると、2018年に就職を目的として在留資格を「留学」から変更した留学生は2万5,942人となり、過去最多を更新した。この人数は一時期減少し、2009年から2011年までは4桁に留まっていたが、2012年に1万969人で4年ぶりの5桁を記録していた。そこからわずか6年で2.5倍まで膨れ上がったのだから、留学生の就職は売り手市場であると想像できる。このうち「技術・人文知識・国際業務」に変更した人数は、2012年が9,702人で全体の89.3%、2018年が2万4,188人で全体の93.2%となり、年月を経ても大多数であることに変わりはない(※2012年当時は「技術」と「人文知識・国際業務」に分かれていたが、本稿では合算した)。一方、従来の傾向に変化があるのも事実で、国籍別のデータにそれが表れている。

 

2012年に「留学」から「技術・人文知識・国際業務」へと最も多く変更したのは中国(5,091人)の留学生だった。韓国(1,048人)、台湾(269人)、ベトナム(148人)、ネパール(134人)が続き、3桁に届いたのは5か国・地域だった。ところが、2018年はトップこそ中国(9,953人)で変わらないものの、2位と3位にベトナム(5,131人)とネパール(2,889人)が浮上した。6年間の出来事と言えば、日本語教育機関において東南アジアと南アジアの留学生が増え、彼らが主に専門学校に進学したことだが、それが就職事情に帰結する。韓国(1,465人)と台湾(1,026人)を挟んでスリランカ(393人)、インドネシア(316人)、ミャンマー(340人)、フィリピン(226人)、タイ(270人)が名を連ねた。さらに、モンゴル(269人)を挟んでマレーシア(227人)、バングラデシュ(201人)、インド(155人)と南方の国からやってきた留学生が軒並み3桁を記録した。

 

国内の就職戦線で東南アジアと南アジアの留学生が目立つことは上記の通りだが、では、来日せずに海外で「技術・人文知識・国際業務」の在留資格認定証明書(※ビザ申請及び来日後の在留資格取得に必要な書類)が交付された外国人はどれほどいるのか。2012年は1万2,677人を記録し、就職のために在留資格を「留学」から「技術・人文知識・国際業務」に変更した人数(9,702人)を上回っていた。両者の数は接近した時期もあったが(※2009年は海外交付が8,905人、「留学」からの変更が8,822人)、前者が後者より多いのが常だった。迎えた2018年、海外交付は過去最多の4万1,510人となり、「留学」からの変更(2万4,188人)に大差をつけた。ベトナム(9,927人)、中国(8,209人)、韓国(4,606人)、インド(3,341人)、台湾(2,316人)、アメリカ(2,244人)、フィリピン(2,066人)の7か国・地域が4桁を記録した。注目すべきはベトナムで、2012年は海外交付の国籍別比率の3.9%(957人)に過ぎなかったが、2018年は23.9%を占めるまでになった。

海外交付された外国人を年齢別に見ると、若年化が進んでいることに気づく。とくに20代は2012年が全体の57.1%だったのに対し、2018年は全体の65.2%まで伸びた。20代と言えば高等教育機関を卒業して社会に出る年代であり、就労経験が少ない年代でもある。なにより国内の留学生にも多い年代だ。海外交付された外国人においてその割合が増している事実は、国内の大学や専門学校を経由せず海外のそれを卒業すれば、就労経験がなくても来日して就職できる可能性が広がっていることを意味する。留学生30万人計画が達成されてからというもの、市場調整の心理が行政に働いているのか、日本語教育機関に留学を希望する外国人の入国申請が通りにくくなっている。つまり、日本語教育機関に留学し、その後、専門学校や大学に進学して就職するという流れは雲行きが怪しくなっているが、対照的に20代の外国人が「技術・人文知識・国際業務」で働きに来るという流れが活発になっている。留学は本当に日本で仕事を探す近道なのだろうか。新たな潮流は、近い未来に「激流」となって日本語教育業界に押し寄せるかもしれない。

 

参 考

入管協会『平成26年度 出入国管理データブック』(2014年)

入管協会『在留外国人統計 2019年版』(2020年)

PAGE TOP