第12回:留学生別科はどこへ向かうのかー前編(2021年5月10日)

垣内 哲(日本語教師センター副会長)

 

日本語教育に関する様々な議論が進むなか、それと並行して、留学生を取り巻く重要な案件が検討されている。大学の留学生別科についてである。新基準の設計までも視野に入れた流れはどこへ向かおうとしているのか。前編では議論の背景を整理する。

 

全てはあの事件が発端だった。2019年3月、東京福祉大学に研究生として在籍している留学生が大量に行方不明となっていることが判明した。「研究生」という聞き慣れない言葉に加えて「留学生」が絡む外国人問題である点が耳目を集め、国会でも取り上げられた。同年3月19日の参議院文教科学委員会において、石橋通宏参議院議員(立憲民主党)は「これだけ本科の学生、留学生を増やしている、別科の学生も増やしている。そして、恐らくそこでも退学生そして除籍、出ているはずです。(中略)ということは、補助金もらっているんですね。それで行方知れずになっているとすれば、これ補助金詐欺と言っても過言ではない」と懸念を示した。事態を重く見た文部科学省と出入国在留管理庁は東京福祉大学の調査に乗り出したが、これを一大学が起こした事件として処理せず、大学業界全体の留学生受け入れ体制の見直しにつなげていった。同年6月、文部科学省と出入国在留管理庁は共同文書「留学生の在籍管理の徹底に関する新たな対応方針」を発表。留学生別科については「教育の質確保や留学生の適正な受入れのための仕組みがない」との課題を示し、対応策として文部科学省が「日本語教育機関に関する法務省の告示基準に準じた上陸基準省令に基づく基準を策定」することを決定した。留学生の受け入れに関して詳細に定めている日本語教育機関の告示基準に倣い、留学生別科についても新たな基準を設けることになったのである。

 

では、別科とはどのような教育機関なのか。学校教育法第九十一条一項は「大学には、専攻科及び別科を置くことができる」と定め、同三項は「大学の別科は(中略)簡易な程度において、特別の技能教育を施すことを目的とし、その修業年限は、一年以上とする」としている。一方、第八十三条において「大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする」とあり、別科はこれに沿っていない。つまり、法的に別科は「大学が設置しながらも、大学ではない教育機関」であり、修了生は大学の卒業生とみなされない。文部省令「学位規則」が定めた学位授与の要件に該当しないため、修了生は学位も取得できない。

 

別科は大学が設置しているので、文部科学省の管轄だ。専攻は多岐に渡り、助産学や養護教諭なども実在する。留学生を対象とした専攻は「留学生別科」「日本語別科」「国際別科」などに分かれているが、文部科学省は「主に外国人留学生への準備教育を主として設置されるものを、一般に留学生別科と称します」(文部科学省ホームページ)としている。一方、日本学生支援機構が運営する日本留学情報サイト「Study in Japan」の説明は異なる。「日本語教育機関は、設置者や目的などにより、以下の2つに大別されます」(日本学生支援機構ホームページ)として、留学生別科は日本語学校とともに日本語教育機関であるとしている(※2021年5月9日時点)。日本語教育機関は法務省の管轄で、法的根拠は告示基準だ。留学生別科とは根幹から異なり、「Study in Japan」の表現は誤解を招きかねない。ちなみに、同サイトは政府公認で、日本学生支援機構は文部科学省所管の団体である。

 

※上記のほか日本医療大学が2020年4月に留学生別科を設置

 

別科の特徴は設置方法にも表れていて、認可申請ではなく届出となっている。両者の違いは行政手続法で定められ、第二条一項三号は「申請」について「法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされている」としている。一方、第三十七条は「届出」について「届出が届出書の記載事項に不備がないこと、届出書に必要な書類が添付されていることその他の法令に定められた届出の形式上の要件に適合している場合は、当該届出が法令により当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達したときに、当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものとする」と定めている。別科の設置は文部科学省に書類を提出したあとの認可が必要なく、その提出のみで手続きが完了するのである。大学や日本語教育機関などの公的教育機関はおよそ認可制なので、別科は比較的容易に設置できると言えよう。

 

最後に別科と留学生の関係を整理する。在留資格「留学」を有する外国人(※通称「留学生」)が在籍できる教育機関は「出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令」が定め、大学に関しては「本邦の大学若しくは(中略)外国において十二年の学校教育を修了した者に対して本邦の大学に入学するための教育を行う機関」としている。留学生は「大学」または「大学に入学するための教育を行う機関」に在籍できるという意味で、後者は留学生別科を指している。ちなみに、同令は日本語教育機関について「外国人に対する日本語教育を行う教育機関(以下「日本語教育機関」という。)で法務大臣が文部科学大臣の意見を聴いて告示をもって定める」と文面化しているので、留学生別科との違いはやはり明白なのである。

(後編に続く)

 

参 考

参議院:第198回参議院文教科学委員会第3号

日本学生支援機構:Study in Japan「日本語教育機関」

文部科学省:留学生別科について

文部科学省・出入国在留管理庁:留学生の在籍管理の徹底に関する新たな対応方針

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